(番外編)マツケン日記

この日記は、あるスキーヤーの披露宴に戦いを挑んだ会社同僚たちの記録である。イベント余興界において全く無名の弱体集団が、倦怠感の中から割と健全な精神を培い、わずか数週間でサンバのリズムを習得した奇跡を通じて、その原動力となった信頼と愛を余すところなく文章化したものである。(テーマ曲:HERO by麻倉未稀)

あらすじ
年明け前の打ち合わせでは「女子十二楽坊やろう」という話だったものの、頭数揃えて座っているだけじゃ間がもたないということで考え直し、誰かがプッシュしたわけでもないのに徐々にマツケンサンバ案で話が進んでいった・・。

1月15日(土)
シウ君宅で打ち合わせ。HSの余興をどうしようかという話のハズだったのに、マツケンサンバの振り付けDVDで大盛り上がり。みんなで一緒になって踊りまくる始末。ま、本来出るはずでなかったテツとケンジが腰元役で出てくれるというのでよかったよかった。
・・しかし、オレがマツケンやるのか?

1月16日(日)
シウ君から頂いたDVDを見ようとしたが、うまく再生できずに見るのを断念。ホムペで見た振り付けストリーミング動画をじっと見て研究。まずは基本ステップができないと話にならないようだ。素振りや整地練じゃないけど、一日のノルマを決めてやれば勝手に体が踊りだす日がやってくるハズだ。

1月17日(月)
アキヒトからメールでマツケン役の依頼が。話し合いの結果らしいが、結構な人数がいたくせに誰も名乗りを上げず、しかもその場にいなかった俺に役を回すという所に皆のテンション低さを感じ、「おしつけられた」気になった。そのまま引き受けるのもなんか面白くないのでみんなに文句言ってみた。夜にシウ君から電話があってさりげないフォローが。意外に優しい男よ。

1月18日(火)
みんなに甘えた甲斐があって(?)各方面からレスが。どうやら各自やる気出してるようなので、晴れてマツケン役を引き受けることに。俺がやるからには歌って踊って・・と言ってみたものの、歌って踊る大変さは高校時代のキャンプで浅香唯のC-girlをやって良く分かっている(そして思い出したくない)つもりなので、これから大変そう。そもそも歌詞に紛らわしいキーワードがちりばめられているので、歌詞を覚えるだけでも苦労しそうな予感が・・。

1月19日(水)
腰元役の妻を交えて本格練習!のハズが、ナイタースキー&息子の看病で全く何もせず・・。息子を抱きかかえながら基本ステップしたくらいか。

1月20日(木)
振り付け動画を流しながら歌って踊ってみる。足でリズムを取りながら上半身の振り付けをするのがとてもムズい。何も考えずにサンバのステップが出てこないとどうもダメみたい。マツケンも涼しい顔してよくやるよ。尊敬じゃ。

1月21日(金)
歌や踊りをパートに分けて、できることからということで間奏の大ダンスナンバー(真島先生談)を仕事中にモゾモゾしながらイメトレ。そして昼時間に誰もいなくなった職場でスーツ姿で練習。おお、イメトレのおかげでスムーズに動ける。しばし時を忘れダンスに熱中。幾分自信がついた。でも、歌詞は相変わらずつまずいてしまう。歌だけ何度も繰り返す練習が必要かも。
夜はビデオ撮影に挑戦。けっこううまくできたつもりが・・・いっぱいいっぱいで踊っている自分を発見。かなり凹みそのまま練習断念。


ンー、バッ!ってヤツ。なぜか嬉しそうな・・

1月22日(土)
休日出勤の憂さ晴らしに飲んで撃沈。風呂でイメトレした程度か。

1月23日(日)
週末にシウ君から振り付けDVDをもらうつもりが、結局夏油まで行かなかったため入手失敗。自分はまだいいとしても妻の踊りがおぼつかないため早く手に入れないと・・。体調崩れ気味なので練習は休み。

1月24日(月)
残業のためこれといった練習はなし。でも、仕事の合間に努めて歌を口ずさんでいるので歌詞は段々覚えてきたかも。でもまだ暗記しながら歌っている感じが。自然に口をついて出てくるようになるのはいつの日か・・。

1月25日(火)
妻にもマツケンとの踊りの違いを指摘される。自分でもビデオを見ていて何か別物に感じる。特にキメの部分「オ・レ」がうまくいかないのでちょっと研究。・・・やっぱり分からない。鏡見ながらやるしかないかも。

1月26日(水)
仕事休んで一日時間があったにもかかわらず、グダグダしたり飲んだくれているうちに糸冬 了。妻が全く練習してないのであせってきたようだ。かといって教えた基本ステップはさっぱりできていない。大丈夫か。

1月27日(木)
インフルエンザで休んでいたから練習などしていないだろうとタカをくくっていたタカ菊池にメールを打ったところが、「こっちは大丈夫、むしろそちらの完成度が心配」とのこと。
ヽ(`Д´)ノムキーと怒るよりもドキリとしたので夜に練習してみた。まずは妻のために腰元の踊りをレッスン。イントロの半分くらいまでを繰り返し練習したが、ちょっとあやしい感じ。でももうちょっと練習すればなんとかなりそうな予感。
妻の前で、歌付きで踊ってみた。一通りできていて悪くないがマツケンのスムーズさには及ばないとのこと。この差は一体何だろうか。動作をもっと細かく検証しなくちゃ。

1月28日(金)
妻にイントロの残り半分を指導するはずが、前日の復習をしているうちに力尽きた模様。素人目にも動きにムダが多すぎるし、疲れるよそりゃ。

1月29日(土)
職場関係のスキーツアーで温泉に1泊。宴会でギターを持ったオジサンがあれこれ曲を弾くのに合わせ歌う余興が。レパートリーにマツケンサンバがあったのでやろうかとも思ったがノリも悪そうなので断念。カラオケだったら絶対やったのに。

1月30日(日)
アキヒト、菊池君とネットでミーティング。衣装や構成、演出について細々と打ち合わせた。テキストは全く使わず音声のみ、さらに高橋家の映像付き。お、面白い!これはやみつきになるかも。結局あれやこれやで2時間も話し込んでしまった。

1月31日(月)
めずらしく残業などしてしまったため練習は休み。歌は思い出すたび一生懸命口ずさんでるおかげで、今まで「踊れセニョリータ」とか「サンバみなサンバ」とか覚えてたのが直ってきた。えがった。

2月1日(火)
ようやくアキヒトからDVD到着。家に帰ると早速妻が一人で練習中。もうレッスンビデオなんか見なくてもと思っていたものの、実際見てみると細かい部分がよく分かって
( ・∀・)イイ!
練習意欲が湧いて2人で踊りまくり。すんげー楽しい。

2月2日(水)
腰元のダンスも結構激しいので、着物を着る予定の妻が踊れないのではということで構成の変更を提案。で、ニセマツケン用の腰元という設定になりそう。本当ならキッチリ覚えて欲しかったんだけど・・。

2月3日(木)
面白いし一石二鳥と思っていたニセマツケンの腰元案はあまり評判がよろしくなかったようで、全体練習で様子を見ながら決めることに。義父の還暦祝いでマツケンやろうという話もあったので、覚えておいて損はないということで妻は練習を続行。こっちは二つ目の余興(ビデオレター)準備のため練習できず。それどころか睡眠時間も削り気味・・。

2月4日(金)
歌いながら踊る練習を最近していないのでやろうかとも思ったものの、ビデオレターの続きが忙しくてできずじまい。全体練習うまくいくのかちょっと不安だったりして・・。みんなどれだけ練習してるのやら。

2月5日(土)
はるばる千葉から菊池君もやってきて、恭ちゃん宅で合同練習。のハズが、奥さんの千賀ちゃんがインフルエンザでダウン。代わりに妻の実家の離れでやることに。初めて他のメンバーが踊るところを見たけど、人数揃うとなかなか良い感じ。最近モチベーションも下がり気味だったけど、かなりノってきて踊りまくり。やっぱみんなで踊れば楽しい。

2月6日(日)
体育館で総合練習。振付師の真島先生も来てくれて、一連の流れを確認しながら通して練習。昨日もなかなかスゴイと思ったけど、ほぼフルメンバーで踊る様は壮観。ちょっとグッとくるものが。こんないいものをタダで見られるとは、伊藤君もシアワセ者よのう。


(ニセ)真島センセイ。でも踊りは腰元でもピカ一。

オ・レ! 踊りが揃って気分も上々

2月7日(月)
妻が、思いのほか踊れていたのに気を良くし、みんなに混じって踊ることに。手足逆だったりするんだけど、今言うと混乱するので目をつぶって気分良く踊ってもらうことにしよう。大体2列目のバックダンサーの足なんて見るヤツいないし。

2月8日(火)
家でもずっと歌いながら踊って練習していても、実際のところ歌えるのか少々心配に。家で大声を上げるのも隣の住人に聞こえそうで恥ずかしいので、2人でカラオケに行く案が浮上。なんか声出ない部分もあるし、当日大丈夫か不安が残る・・。ま、踊りだけなんて絶対したくないのでいいか。

2月9日(水)
子供を実家に預けてカラオケ店で練習しようかと思っていたものの、出だしが遅れて結局断念。休暇をとったので明日やることにして、家で練習。歌いながら踊ってビデオを撮ってもらいチェック。細かい部分を修正できたし、「オ・レ」もやっとやり方が分かったけど、自分の目標レベルには未到達の感が・・。でも、当日は楽しくできればいいやってことで妥協。

2月10日(木)
今日は休暇をとって所要を済ませ、リハーサルのためカラオケボックスへ。実際やってみると思いのほかスムーズに歌えたので大満足。30分くらいで終えるつもりが、楽しくて結局1時間まるまる歌って踊った。
夜は亮人邸であれこれ準備。100円ショップで買ったカツラをマツケン用に立派に仕立ててもらい、準備は万端。明日がかなり楽しみだ。
それにしても、チカちゃんが作った腰元衣装の出来には驚いた。マジで店頭に並べられる、しかも洋服屋とかに。さらに驚きなのは、余興でマツケンやるとも決まってないのにそれを既に作っていたこと。・・一体何ゆえ??
何はともあれ明日の発表会(?)はベストを尽くして楽しんでやりたい。頑張るぞと。


踊る妻。本人の希望で控えめサイズ。

2月11日(金)
当日。あまり寝てないにも関わらず、目覚ましも使わずにパッと起きた。妻の着付けのため水沢経由で一関の式場(ダイヤモンドパレス、通称ダイパレ)へ。

開場30分前にはほぼ全員揃い、まずは会場の下見。ステージの広さ、階段の位置、高砂までの距離、高砂と高砂前のスペース等見て周り、司会者・音響担当の方と打ち合わせ。一通り準備が完了したところでちょうど入場の時間。

式は滞りなく進み(いやちょっとおしてたか)、頃合いを見計らって準備へ。前の日作ったマツケン専用カツラはヅラ職人(菊池君)の手によってさらに毛が増え、かなり本物に近くなっていた。帯も妻の実家から借りてきたし、格好は万全。ただ着替え終わってからトイレに行きたくなり、なんとかそのままの格好で用足し。
今さら言うことは何もないので、高砂の2人にアピールできるよう「楽しくやろう」とだけアドバイス。発表本番を前に皆緊張の面持ち。

そしていよいよ余興開始。始めはスーツ姿の3人がハンドベル演奏。曲は「世界に一つだけの花」で、演奏後マツケンサンバを鳴らし始めるというもの。ここはウケを狙った部分ではないので、客席の反応は特に気にならず。肝心なのはこの次、アツケンことニセマツケンが登場するシーン。
「オ・レ!」の掛け声とともにアツケン入場。会場はワーッと盛り上・・がる声が聞こえてこない。「滑ったのか!?」かろうじてステージは見えるものの、場内を見ることができないのでもどかしいばかり。アツケンが一生懸命踊っているのが見えたが、予定に反してウマい。でたらめに歌って踊ってハンドベル隊に追い出されるストーリーだったのに、まるで練習してきたかのよう(その通りだが)。
追い出される場面は自分が指示した通りだったのだが、音楽を担当したシウ君のイメージとは違ったらしい。後でシウ君から話を聞いて「そっちの方がよかったな」と思ったものの、あとの祭り。段取りは綿密に・・。

アツケン退場後、いよいよ腰元入場。会場は・・やっぱり反応が聞こえない。入り口に一人残され、少々不安になってきた。そしてイントロの踊りが終盤になるタイミングで、ハラを括って登場。
会場の反応は・・・

「やっぱり静かだー!!(心の声)」
目に入る人すべてが、
「ああ、何か頑張ってるねぇ」といった表情でこちらを向いているようにしか見えない。
おまけにステージ上はツルツルで足袋では踊りにくく、
「(いろんな意味で)滑ったーーー」
と思わせるに十分だった。

ステージ下、新婦側の席には父親にだっこされた女の子が見え、一緒に歌ってくれているようだった。
「ああ、このステージはこの子のために捧げよう」
と半ば切ない気持ちに。かつてある余興で滑りまくって生き恥をさらした記憶が鮮烈によみがえった。

なんとか1番を歌い終え、マイクを渡そうとステージ裾を見るが、担当のミツルの姿が見えない。仕方なくスイッチを切ってステージ脇に置いた。段取り不足だったか・・!

間奏はテツ&ケンジと3人で大ダンスナンバー(真島センセイ談)。このあたりは開き直って楽しく踊った。実際、楽しかった。

そして2番はステージを降り、高砂へ移動。ここで状況が一気に変わり、場内が盛り上がり出した。これまでモノクロに見えていた景色がカラーになった。

キタキタキタ━━━( ´∀`)・ω・) ゚Д゚)・∀・) ̄ー ̄)´_ゝ`)━━━!!!!

握手を求められたりカメラを向けられポーズを決めたりして俄然やる気アップ。高砂のスタンディングオベーションを前に、封印していた歌詞も披露。興奮のまま踊りきることができた。
そして高砂から新郎新婦へ祝福のメッセージを残して退場。もう一捻りアイデアがあればなぁと思ったものの、会場の温かいムードに包まれ充実感でいっぱい。

思い起こせば3ヶ月ほど前から、あーでもないこーでもないと余興を考え始めてたどり着いたマツケンサンバ2(トゥー)。歌いながら踊れるのか心配になりながらも、最後にはステップも歌詞も自然に出てくるまでになり、やればできるんだと実感。仕事の合間を縫って衣装や小物、構成や音楽編集やら細々準備段取りがあって大変だったけど、「報われたなー」という気持ちは皆同じだったと思う。何より新郎新婦に喜んでもらって本当によかった。それこそが目的だったから。

時に笑い合い、時に喧嘩し(ウチの夫婦)、友情をはぐくんだマツケンサンバ2(トゥー)。また会う日まで、

ビバ・サンバ 

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